『夏のロケット』(書評)
『夏のロケット』川端裕人
大洗藍司
海渡英祐という作家がミステリー講座で〈ミステリー〉の定義を聞かれたときの答。「謎、サスペンス、意外性。この内の一要素以上あること」。これほど簡潔で的を得た定義を私は知らない。
さて本書は、サントリーミステリー大賞優秀作品賞を受賞している。主人公の青年新聞記者は、過激派アジトの写真の中に、高校時代の天文部ロケット班で造った部品を見つける。いったい誰が何故? でも、彼が探り始めるとすぐに旧ロケット班メンバーに行き着いてしまい、謎と言うものではない。その後も、謎など無いなぁ。
その班は同級生四人組だったが、今また主人公を除く三人が密かに集まり、再びロケットを飛ばそうとしていた。主人公も仲間に加わり、会社そっちのけでロケット製作に打ち込む。素人が造るロケット、造る技術はあるのか、本当に飛ばせるのか、ハラハラ、ドキドキ。でもそれは、サスペンスではなくてスリルだろう。
高校時代は打ち上げ全てに失敗したが、果たして今回は飛ぶのか、失敗に終わるのか。 実際どちらになるかは読んでのお楽しみだが、成功するにしろ失敗するにしろ予想の範疇(はんちゅう)で、意外性には乏しい。
あれま、謎もサスペンスも意外性もない。何でこれがミステリーなんだ?
でもミステリー色は薄とも、青春小説としては逸品だろう。運良く(あるいは都合良く)金はあるものの、素人が、満足な設備も環境もないのにロケットを飛ばそうと企画する。夢は熱い。それは、高校時代からの夢の続きでもあり、人生の夢でもある。
そしてまた本書には、ロケット開発は素人の開発と関連が深いこと、ロケットとミサイルの違いは何かなど、ロケットに関する蘊蓄(うんちく)も満載。
つくづく宇宙とは浪漫をかき立てるものだなぁと納得した次第。青春小説に興味のある方、宇宙小説に関心のある方にお薦めしたい一冊である。
〈出版〉文春文庫
〈本文文字数〉七六八字
| 固定リンク
この記事へのコメントは終了しました。

コメント