ノーと言わせてくれ(2)
「ばっかねー、何で他人が割った卵を買ってくるのよ。」
武田の彼女である山口里香は武田に向かって呆れた表情をしていた。里香は武田とは大学院の同級生で二人はその時からのつき合いである。しかし里香は宇宙工学の専攻から一変して商社に就職をしたキャリアガールだ。武田はいつものように背中を少しまるめて遠くを見つめているだけだった。武田はなにか都合の悪いことがあるといつもきまってこのように遠くをみつめ黙ってしまうのが癖だ。
「あなたはどうしてはっきりとノーと言えないのかしら。あなた帰国子女でしょ。アメリカに10年も住んでいたんでしょ。帰国子女といったら自分の意見をはっきり言うのが普通じゃない。」
「帰国子女といっても小さいころのことだから・・・でも今晩はすき焼きなんだし、どうせ卵は混ぜちゃうんだからいいじゃないか。しかも半額になったんだからよかったと思えばいいじゃないか。」
「あなたは仕事でもそんな風じゃないの。そんなことじゃ絶対出世なんかしないわね。きっと上司にでもいいように利用されて最後は、ポイとお払い箱いきね。」
里香はだれにでもはっきりと物を言う性格だった。対照的に武田はいつものように少しうつむいて遠くを見つめながら黙っていた。
そんな武田を見ると里香はいつも話を変えてしまうのが習慣だった。
「ところで勝利、あなたのところで今度、木星飛行計画があるんだって。」
「そうなんだ。NASAが中心で進めている計画で、人類を木星にある衛星に送り将来の移住計画の基礎データを集めてくるのが目的なんだ。」
宇宙の話をしている時の武田の目は先ほどの表情とは一変して輝いていた。
「何でもニュースで言っていたんだけれど、この木星計画には日本からも参加する予定な んだって。それってあなたのところでしょ。まさかあなたが木星に行っちゃうなんてことないでしょうね。」
「何ばかなこといってんだ。たしかにうちの宇宙研究所もこのプロジェクトに数名参加する話はきているけれど、それはNASAの資金集めと宣伝の一環で数カ国から参加を条件に資金を集めるのが目的だよ。実際に行く宇宙パイロットは別に決まっている筈さ。
秘密事項だからあまり詳しく言えないけれど、そのうち宇宙飛行士募集なんて宣伝がされると思うよ。」
「でもあなた宇宙物理が専門だからスタッフとして選任される可能性だってあるじゃないの。私を置いてアメリカに行っちゃうなんていやだからね。」
「大丈夫だよ、そのときははっきりと断るよ。」
「ぜったいよ、約束だからね。」
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