失敗作(1)
「失敗作」
真鍋友則・作
1
とても暗い。時間が流れていない。
体の奥に突き刺さっているかのような悲しみが、ぼくの体を内側から冷たくゆさぶる。
もうさんざん悲しんだっていうのに、考えることを止めようとしても、止めようとすればするほど、ぼくはまた泣いていた。
えみちゃん。えみちゃんがいない世界がこんなにも真っ暗だなんて、だからえみちゃんは光だったんだ。太陽よりも明るい、光だったんだ。
えみちゃんはもうえみちゃんではなくなって、深くて暗くて遠いどこかへ行ってしまった。ぼくを置いて。ぼくをひとりっきりしにして。
もうぼくには、えみちゃんの声は聞こえない。でもぼくは、聞こえないえみちゃんの声を聞きたくて、暗闇に向かってしずかに耳をかたむける。
ーぼくはどうしてここにいるのだろう? ぼくは、ぼくが誰だかわからない。
命は、いつか必ず、壊れて何か別なものになる。ぼくの意識は、きっとどこかでぷつんと消えてしまう。夜になって、眠りに落ちていくときみたいに。生き物たちは、寝たり起きたりを繰り返しながら時間を紡いできた。えみちゃんもぼくも、大きな河の中にできた小さなうずみたいな存在で、そしてえみちゃんはぼくより先に消え去ってしまった。残されたぼくは、電気の通っていない電気製品みたいに、腐らないだけの死体になった。
えみちゃんは、最期まで無邪気だった。えみちゃんの命を奪ったあの男たちはぼくから光を奪ってしまった。だけどぼくは光がなくなって闇が見えるようになった。
ぼくたちは、失敗作なのだ。
ーずっと、ずっと遠くで、えみちゃんの笑い声が聞こえた気がした。それはかすかだけど、はっきりと美しかった。だけど闇はすぐにぼくの体を包み込み、ぼくには幽霊のような思い出だけが残る。
もう何日が過ぎたのだろう。目が覚めても何も変わらない。結局ぼくはここにいる。
ぼくにはある予感があった。そしてきっとその予感は当たるはずだった。
不思議な気持ちだった。寂しくはなかった。それが、当たり前のことのようにも思えた。でも少し、気になることもあった。だけどぼくにとっては、もうどうでも良いことだった。
ドアが開いた。光が差し込む。
願わくば、向こうでえみちゃんと再会できますように。
ぼくは祈りをこめて振り返る。
「お母さん?」
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コメント
シュレ猫文章倶楽部に新規参加の真鍋氏による処女作。
生まれて初めて書いた小説ということになる。
ダークなSF短編。
最終回に講評を載せます。
投稿: 竹内薫 | 2005年9月15日 (木) 04時15分