漱石と倫敦ミイラ殺人事件(書評)
『漱石と倫敦ミイラ殺人事件』島田荘司
大洗藍司
夏目漱石は倫敦(ロンドン)留学中、背が低いことにコンプレックスを持ったり、ホームシックにかかったりしたのは有名な話。漱石の留学とはいつ頃か。シャーロック・ホームズが活躍していた時代である。
本書は、漱石がホームズに依頼をしてから倫敦を離れるまでを、事件を中心に綴(つづ)った物語である。倫敦の下宿屋で夜中に物音が聞こえ、漱石は怯えて引っ越しをする。が、しばらくしたら、幽霊の物音も引っ越ししてきた。困った漱石は、師と仰ぐシェイクスピア学者に相談する。「ちょっと頭がおかしい男なんだが、今は退院しているので、帰りがけに寄って相談してみが良かろう」「凶暴なところがあるのですか?」「普段はそんなことはない。ただ、気が向くと女装して歩いたり、部屋で拳銃を撃ったり、走っている辻馬車の後ろにやたらに飛び乗ったりするもんだから、近所の連中が無理矢理入院させたんだ」「そんなんで大丈夫なんですか」「付き添っている医者がなかなかの切れ者らしいからね」
そこで漱石は怖々(こわごわ)ホームズを訪ねるのだが、その出会いが、また強烈! それは読んでのお楽しみとして、幽霊の件はすぐに解決する。だが寒い部屋の中でミイラ化した青年の事件に巻き込まれ、漱石はホームズ達の捜査に協力する。
本書の語り手は、漱石とワトソン。交互に書き綴(つづ)ってゆくが、それぞれの視点がまた面白い。
ただ、シャーロキアンを自認される方は、血圧が上がるだろうから、読むのを控えた方が良いかもしれない。なにしろ、ホームズの気違いぶりがハンパでない。けど、どれも理にかなっているので、大笑い。
この作者、実は自身が大変なシャーロキアンだそうで、だからこそボロクソに書いても許されるのだろう。島田荘司がさほど好きでないからかもしれないが、私は、『占星術殺人事件』や『斜め屋敷の犯罪』よりも本書をベストに挙げる。
〈出版〉集英社文庫、光文社文庫
〈本文文字数〉七五五字
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