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2005年9月29日 (木)

ノーと言わせてくれ(8)

それから武田は一ヶ月の休養をとりNASAに向かうことになった。
NASAに着くと長官が直々に武田を出向いた。
「やあ、君が武田君だね。その節は大変だったねえ。でも君はいい彼女をもったよね。」
このとき武田は里香の交渉していた相手がNASAの長官であったことを知った。
「ところで私に重要な任務とはなんですか。」
「うん。それなんだが、今度の木星有人探査の件なんだが・・・」
「宇宙飛行士が決まったんですか?」
「それが、決まったといえば決まったんだが・・・」
「それは誰なんですか?」
「この際だからはっきり言おう。候補は君なんだよ!」
「ぼ、僕ですか?ちょっと待ってください。僕は確かに宇宙飛行士ということでノミネートされていますけれどそれは表向きで本当は技術スタッフじゃなかったんですか?それに僕には宇宙飛行士なんか出来ませんよ。」
「そう言われてしまうとそうなんだが、実は候補は10人いたんだがこのプロジェクトが進むうちに一人づつ辞退していって最後には9人とも辞退してしまったんだよ。そして残ったのは君一人なんだ。」
「何故皆辞退してしまったんですか?だめです、だめです、僕なんかが宇宙飛行士だなんで・・・」
「困ったなあ、もう時間がなくなってしまって正直に言うと君がノーといってしまうとこのプロジェクトは終わってしまうんだよ。」
「だったら他に代わりを探せばいいじゃないですか。」
「今から代わりといっても宇宙飛行の知識があって気力、体力があってなんて人そう何人もいないんだよ。」
「僕は体力なんてありませんよ。」
「君は誘拐されて三ヶ月も生き延びて無事に帰ってきた。それに知識も十分だ。君が最適な人なんだよ。それにこんなことは言いづらいんだが、君の身代金三億円を払ってしまったため予算もぎりぎりになってしまったしね。あっ、身代金を払ったから代わりに行ってくれといっているんじゃないだ。でも君なら引き受けてくれると思うんだが、ああ大統領に何て言おう。きっと私はクビだな。君が引き受けてくれると思って三億円もつかってしまった・・・」
そういうと所長は頭を抱え込んでしまった。しばらく沈黙が続いていたが所長は武田のほうにゆっくりと顔をむけた。
「頼む、NASAいや人類の未来のために引き受けてくれ。」
「そんな・・・、でもお世話にもなっているんですが・・・」
「そうか、やってくれるか、きみなら引き受けてくれると思ったよ。これで私もNASAも救われた。ありがとう。ありがとう。」
「い、いえ、引き受けるとは・・・」
「早速この書類にサインをしてくれ。そうそう君の身代金に払った三億円のことは忘れてくれていいよ。」
そう言うと所長は用意してあった契約書を机の引き出しから出した。
「君は人類の勇者だよ。ありがとう。」
そういうと所長はペンを武田に渡して手をとるようにサインさせた。武田もさすがに断りきれなかったのかよく考えずにサインしてしまった。
「あの所長それで宇宙飛行のメンバーとか計画はどうなっていますか。」
「あっ、ああ、あとで詳細を伝えるから。私は直ぐに大統領に会う約束があって行かなきゃならないんだ。また明日ゆっくりと話すことにしよう。」
所長は武田のサインした契約書をひったくるように取り上げると慌てて部屋をでていった。
「所長、あの、待ってください。サインはしましたけれど・・・」
所長は武田の声を聞く余地なく、走って出て行ってしまった。
その晩になって家にもどった武田は部屋のテレビを見ていて仰天した。
ホワイトハウスでの大統領の記者発表に所長が出ていたからである。
「本日、木星探査のための宇宙飛行士が決定いたしました。本計画は人類の未来にとっての重要な役割を担っています。今回の宇宙飛行士は宇宙飛行船の大きさの制限もあり、一名になります。この重要な役割を果たす勇気ある人物を発表いたします。」
「その人物は日本の武田勝利さんです。武田さんは先日のハイジャックで誘拐されながらも不屈の闘志をもって3ヵ月後無事生還された人物です。」
大統領の演説が続いた。大統領の横にいた所長は満面の笑みを浮かべて武田の顔写真を持っていた。
放送が終わってから十分もしないうちに電話がかかってきた。里香からである。
「何やってんのよ!!木星なんか行ったらもう会えなくなるかもしれないじゃない。一体何年いっているのよ。私はどうすればいいのよ。ばかー!」
里香は一方的に電話を切ってしまった。

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