蟲供養(1)
「蟲供養」
藤薫・作
両手足がずっしりと重い。指先が砂になって崩れ落ち、地面に吸い込まれてゆく。頭は上下にぐらぐらと揺すられて、とても気分が悪い。身体のどこも動かすことができず、吐き気がするのに横を向くことすらできない。
塔子(とうこ)はうっすらと目を開けた。ぼんやりとした視界の中に、白い壁が映る。だが、すぐに目眩と吐き気に襲われ、塔子は強く眼をつむってその不快感に耐えた。そのままじっとしていると、背中のほうに暗く深い穴が口をあけ、塔子はその中に仰向けのまま落ち込んでいった。
しばらくして、また目が覚める。さっきより視界は明るく、頭もはっきりしてきた。だが、身体は動かすことができない。
まだ夢の続きを見ているのかと思い、今度はもっとしっかりと両手足に力を入れて起き上がろうとしたが、やはり身体は動かなかった。両手首と両足首、そして腰が太いベルトのようなもので固定されているのだ。
自由に動かすことができるのは首だけで、上半身を起こすことはできない。首の動く範囲で辺りを見回すと、視界の隅に薄青い布切れが目に入った。カーテンのようだ。天井と壁は白く、殺風景だ。ここは自分の部屋ではない。
カチャカチャと金属が触れ合う音がして、誰かが部屋に入ってきた。ワンピースのような白衣と帆のような帽子。看護士だ。
―――ああ、わたしはきっと頭がおかしくなって、病院に入れられてしまったんだ。
これまでの記憶が、徐々に湧き出てくる。追いつめられ、行き場をなくした塔子は、海に逃げ込んだのだ。
服の中に滑り込んでくる水の冷たさが甦る。黄色い水の中に頭まで浸かり、鼻がつんと痛くなり、苦いような水が口の中にどんどん押し寄せてきたところまでを覚えているが、その後どうなったかは覚えていない。
目が覚めてみたら、こうして両手足を固定されて寝かされているのだ。
―――ここにいたら、もしかして大丈夫かしら?
他の人間がそばにいる安心感も手伝ってか、希望が生まれる。ここにいればもう怖くない。誰かが必ず、守ってくれるだろう。
何日かぶりにようやく心身の緊張を解いた塔子は、蕩けるような眠りの中にずるすると埋まっていった。
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