コマネチNY珍道中(3)
どの世界でも「投票」がからむ場合には、事前の情報収集により「票読み」をするのが鉄則だ。
もちろん、「票固め」ができるに越したことはないが、仮にそれだけのインサイダー情報がない場合でも、少なくとも票読みができなければ、戦いになどならない。
今回、私が現地入りして、日本のテレビ業界のアカデミーにおける「代表」であるべき人たちと話をした正直な感触は、彼らが自分たちの役割(=人的交流、日本の番組を理解してもらうための文化交流、過去のイギリスの受賞数の偏りの是正措置などなど)をきちんと果たしていなかった、というものだ。
今回、アカデミーの関係者が出席した事前の試写会では、イギリスの作品は「よくあるスター誕生モノ」で、よもや、5年連続でイギリスが獲ることはあるまい、という評価だったという。しかし、それは、どれくらい「確実な情報」にもとづいたものだったのか。単なる希望的観測にすぎなかったのではないか。
いずれにせよ、現地の担当者の事前の情報収集は失敗だったわけだ。
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パーティの席上で、私は我が目を疑った。
アカデミーの主要メンバーとおぼしき人々が英語で歓談をしている。イギリス訛りとアメリカ訛りなのだから、いったい、どのような人々が話をしているのか、だいたいの予想はつく。しかし、そこには日本のメンバーの姿はなかった。日本人は日本人だけで集まって「孤立」していた。
外交用語でいえば、今回、私が見るかぎり、日本の「プレゼンス」はゼロに等しかった。だとすると、強力なプレゼンスを誇るイギリスが、無理矢理に票固めをしても、日本は文句もつけられないことになる。
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私は、数分で二つ目のエミーを手にしたBBCのプロデューサーが、意気揚々と壇上に上がり、両手で二つのエミーを誇示し、「もう壇上には上らないからね」という余裕のジョークを飛ばした瞬間、あまりの茶番に胸くそ悪くなってしまった。
これじゃあ、ノーベル賞と同じだ。(ちなみに、イギリスの人口当たりのノーベル賞受賞率も国際エミー賞同様、異常に高い!)
特別プロジェクトチームを編成し、多額の費用をかけて、日頃からアカデミー内における地固めをしているBBCと、かたや、基礎的な情報さえもらうことができない日本。
その「からくり」を「読んだ」のだろうか、四つ目のエミーをイギリスが手にした瞬間、たけしさんは、椅子を蹴るようにして、会場を後にした。私もたけしさんの後を追った。
しかし、今回、さすがにイギリスは「やりすぎ」だったように思う。会場にうち捨てられた無数のパンフレットがそれを物語っている。
世界20カ国と銘打っておきながら、なんと、9部門中7部門(!)をイギリスが独占。去年は9部門中6部門だったから、相変わらずの展開となった。コマネチが出場したバラエティー部門にいたっては、部門創設の2003年以来、5年連続でイギリスが受賞。他国は全く受賞できていないのだ。
「国際」エミーではなく「英国」エミーといわれる所以である。
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イギリスは、今回、8部門にノミネートされて7部門でエミーを手にした。
日本は、今回、4部門にノミネートされて受賞はゼロ。
(てゆーか、99年以来、受賞ゼロ? 要確認)
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で、今後の課題だが、まず、日本の利益を代表する人物を入れ替える必要がある。これは絶対に必要だ。有能な人材を送り込んで、アカデミー内における日本のプレゼンスを底上げしなくてはダメだ。それには外交費用もかかるだろう。はたして、日本のテレビは、それをする用意があるのだろうか。
その人物は、同時に、「イギリスのやりすぎ」を論理的に批判し、このままでは国際エミー賞が世界的に「信頼を失う」ことを納得させ、アカデミーが自主的に「改善策」を講じるように仕向けなければならない。
たとえば、英語が母国語の人たちは、そもそも番組を「字幕」で見る経験に乏しいから、ついつい、字幕なしの英語番組のほうを高く評価しがちではないのか? (賄賂などは言語道断だが、無意識のうちに非英語圏の文化を「差別」している可能性は高い!)それを彼らに「自覚」させる必要がある。
そして、それができた上で、(たけしさんの言葉なのだが、)「次は、もっといい作品をつくってエミーを獲ってやろう」という、現場のがんばりがあれば、きっと、いつか、国際エミー賞は日本にやってくる。毎年とはいわないまでも、数年に一回は獲ることができるようになる。
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私は、二つのエミーを高々と突き上げたBBCのプロデューサーの勝ち誇った笑いを決して忘れないだろう。
また、会場に流れたコマネチの映像の酷いとしか言いようのない「編集」も忘れないだろう。(これについては、たけしさんも激怒していた。わざわざ、どうでもいいシーンをもってきたとしか思えなかったからだ。NHKの番組のシーンも、特に、あまり出来の良くないCGのところだけを流されて、日本で番組を見ていた私は、はっきりと編集した人物の意図を感じた。)←編集のプロであるディレクターも「見え見え」だと、あまりにも出席者を馬鹿にした編集差別に怒りを露にしていた!
ここに書いた私の分析は、さほど的外れではないように思う。
ようするに、これはコンテンツ業界の「戦争」なのだ。
国際エミー賞を獲れば、イギリスのコンテンツは世界に高く売れる。そのための工作費用など安いものだ。
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とにかく、今回、私は自腹で現地入りして、全てをつぶさに観察し、大勢の人と話をし、多いに勉強になった。
もう、私は国際エミー賞に行く機会はないだろうが、今後の人生が大きく変わるような予感がしている。
そして、ほとんど一人だけの力でわれわれを桧舞台まで引っ張って行ってくれた北野武という人物の偉大さを改めて実感した。ほんと、スゲーよ、たけしさん。「名将」らしい、実に立派な敗戦でした。
数年以内に、たけしさんは、国際エミー賞を獲るにちがいない。イギリスの国家戦略なんか、もう、けっ飛ばしちまってください。
(以上、すべて、竹内薫から見た「解釈」と「意見」と「分析」であり、他の人々は一切かかわっていません。事実関係のまちがいなども全て竹内個人の責任です。そこんとこ、ヨロシク。)
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