事前確率が等確率である例として、有名なモンティ・ホール問題の計算をやっておこう。
問題 ドアがA、B、Cの3つあり、そのうち1つの背後には賞品がある。ゲームショウの司会のモンティは「どれか1つ、扉を選んでください」とあなたに言う。あなたは(たとえば)Aを選ぶ。すると、モンティは(たとえば)Bを開いて「Bの扉には何もありませんでした! さあ、このままAでいいですか? それともCに変えますか?」と訊ねる。AのままとCに変えたときの当たりの確率は?
補足が必要だろう。
モンティは、どの扉に賞品が隠されているかを知っている。だから、仮にあなたが選んだ扉がカラッポだとしたら、残りの2つのうち、賞品がないほうの扉を開示する。仮にあなたが選んだ扉が当たりだったとしたら、残り2つの扉のどちらかをランダムに(=1/2の確率で)開ける。
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計算である。
あなたが扉を選ぶ前の事前確率は、情報ゼロなので、
Aが当たり=1/3
Bが当たり=1/3
Cが当たり=1/3
になる。あたりまえだ。(コマネチの問題とのちがいに注意! 全部ハズレという可能性はない!)
次に、「あなたはAを選び、モンティはBを開示した」という新たな情報が付け加わる。この時点で確率はガラリと変わる。計算してみよう。
Aが当たりで、モンティがBを開ける確率=1/3×1/2
Bが当たりで、モンティがBを開ける確率=1/3×0
Cが当たりで、モンティがBを開ける確率=1/3×1
Aが当たりなら、モンティが開けるのはBでもCでもいいので、Bを開ける確率は1/2である。また、Bが当たりでモンティがBを開けることはない。そして、Cが当たりでモンティがBを開ける確率は1(Aはあなたが選んでいるし、Cは当たりなので開けられないから、Bを開けるしかない!)。
コマネチの問題で「どこにも忘れない」という可能性が消えたのと同様、モンティ・ホールの問題では、真ん中の可能性が消えてしまった。だから、確率の総和は1にならない。つまり、再規格化が必要になる。
最終的に、
Aが当たりである確率=1/3×1/2÷(1/3×1/2+1/3×1)=1/3
Cが当たりである確率=1/3×1÷(1/3×1/2+1/3×1)=2/3
つまり、あなたは、扉を変えることにより、当たる確率を二倍にすることができる!
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コマネチの問題と比べてみてほしい。
事前確率が等確率かどうかはちがうが、まず、当初の情報でできる(総和が1の)確率計算があり、次に、新たな情報の追加(=状況の変化)により、ある可能性が消えてしまい、確率の総和が1より小さくなり、最終的にその総和を1に戻すことにより事後確率が計算できる・・・つまり、コマネチの問題とモンティ・ホールの問題は、構造は同じということだ。
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混乱した人は、ココを見てじっくり考えてみてね。
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結論:コマネチの問題文で「一箇所で忘れる」が誤解を生んだようだ。「忘れ物は一個」とすべきだったと思う。これについては素直に反省。ただし、一部、私の解説を執拗に批判している人がいて、その方には、スタジオで解説することと、それが放送されることは別である事情を理解してもらいたいと思う。怒りのエネルギーを私個人に向けないでほしい。数学とは、本来、怒るものではなく、楽しむものだと思います・・・そこんとこ、ヨロシク。