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砕けた刀

私は一匹狼だが、いざというときは腰に差している刀で身を守ることができる。

私と一緒に旅をしているKは、同じく一匹狼だが、刀をもっていない。

私は長年、Aという組織と仕事をしてきた。Aは私のような芸人を招いては、自分の舞台で芸をやらせる。担当者のJとも仲良くやってきたつもりだ。

いつものように仕事の打ち合わせをしていて、たまたま私とKが一緒に舞台にあがることになった。

だが、後日、Jから連絡があり、私を他の有名人と共演させたいと言う。

「Kはどうなりますか」

担当者Jは、Kは舞台に立たせないつもりだと言う。

「それはKにとっては、まるで頭上から刀を振り降ろされるような状況です。どうでしょう、大劇場ではなく、小劇場を使い、当初の案どおり、私とKで舞台をやらせてください」

だが、担当者Jは、自分は別に刀を振り降ろしてなどいないし、組織Aの会議の結果は絶対で変えることはできないと言う。

そうなのだ。

大きな組織とそこで働くJには、単なる会議の結果が、Kのような武器をもたない人間にとって凶器になることがわからない。実際、彼らの目には、自分たちの決定が「刀」には映ってなどいない。だが、私には見える。それがKを切り刻んでしまうことが・・・。

Kの頭上ではなく、少しずらして、刀の切っ先を地面に落としてくれさえすればよい。お願いだ。そうしてくれ。

だが、私の嘆願は組織AとJの耳には届かなかった。

私は、だから、自分の刀を抜いて、振り降ろされつつあったJの刀を思いきり振り払った。

私の刀は粉々に砕け、周囲に飛び散った。その破片は、Jを傷つけ、Kを傷つけた。それぞれが、どれほど深く傷ついたのかは、定かではない。また、周囲にいて破片が降りかかってきた人たちは、さぞ迷惑だったことであろう。

Jに悪気はなかったはずだ。そもそも刀が見えていなかった・・・というより、Jの視点からは、いまだにどこにも刀など存在しないのだ。

結果的に、Kが独りで深手を負うのではなく、JとKの二人が、それぞれの傷を負った。

組織Aの裁定は単純明快なものだった。

いきなり刀を抜いた罪により、狼藉者の私を舞台から追放する。この処分は、組織Aの地方の舞台についても同様である。以上。

***

初めから刀が存在しなかったのであれば、なぜ、私の刀は砕け散ったのだろう。

***

人の心とは難しいものだ。

***

私の腰に刀がないのに気がついたマネージャーさんが、新しい刀をもってきてくれた。前より靱(しなやか)で美しい刀だ。

「新しい刀もお似合いですよ。舞台だって他にいくらでもありますから」

そうかもしれない。

できれば、もう、刀は、抜きたくない。

でも、遅かれ早かれ、また、私は刀を抜くことになるのだろう。

もしかしたら、それが私の人生なのかもしれない。

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