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燃え尽きる

(やれやれ・・・老骨に鞭打って、ふたたび御奉公することになろうとは、さすがのワシも考えておらんかった。とうの昔に、老いさらばえ、目もかすみ、頭の回転速度も落ちたワシに出番などない・・・そう決めつけておったが、こうして、ふたたび出仕してみれば、まだ、少しは使い物になるかもしれん)

三十五度を超える室内は、湿気でじめじめしており、久しぶりの重労働にMは本当に死ぬかと思った。
朝の五時から夜の十時過ぎまで、延々と計算は続いた。
Mは、隣の部屋でスリープしている若くて小さくて黒い後輩に腹を立てながら、黙々と計算を続けた。

やがて、後輩が目を醒して、Mがふたたび職場に復帰していることに気づいた。

「おい、じじい。何、いまさら舞い戻ってやがんだ。オレが全て引き継いだんだから、てめえはいらねえんだ。誰が戻っていい、って言った?」
「全てはTの思し召しじゃ」
「てめえ、燃えちまうぞ」
「じゃから、Tは、おまえを休ませて、引退して久しいワシを戸棚の奥から引っ張り出してきたんじゃろう。ワシなら、万が一、発火してもかまわんからな」

Mの計算が終わった。

しばらくすると、Tが部屋に入ってきて、しばらく、眉間に皺を寄せてMの画面を眺めていたが、軽く舌打ちし、計算回数を1500回から3000回にあげて、enterキーを押すと、自分は、黒い新型マックの前に坐ってメールを打ち始めた。

「おかやん様、MAXIMA本の量子ポテンシャルのプログラムですが、最後の最後で軌道計算が今一つ安定しません。速度計算のアルゴリズムを改善しましたが、もともと、簡易計算で波動関数を計算しているので、これが限界かもしれません。あと数日、古いパソコンで限界ぎりぎりまで計算回数を上げて計算してみます」

かくて、まだまだ暑い夏の日、旧型マックの死闘は続く。
そう、文字通り燃え尽きる瞬間まで・・・。

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