« お金じゃないんだよ! | トップページ | ちょっぴり科学なファンタジー »

奴はいつのまにやらオレの前に現れた。

オレの中で何かがキレた。次の瞬間、オレは、群衆の中の孤独な狼になっていた。ブチッという嫌な音がした。ああ、オレは、いったい、どうなってしまうのだろう・・・。オレは、その場に跪(ひざまず)いた。失われた、オレの「かけら」を拾うために・・・。

***

「ねぇ、ママー、あの人のズボン、ボタンが飛んじゃったよー、どうしてー」
「しっ、見るんじゃありません!」

***

顏を真っ赤にしながら、片手に、飛んだばかりのボタンを握りしめて、公衆便所に避難すると、そこには、地べたに顏をつけてはいずり回っている若い男がいた。奴も、失った己の「かけら」を探し求めているのだ。

その傍を無神経な親父が革靴の音をたてながら歩き回り、まるで不審者でも見るかのような目つきで、じっと若い男を観察していた。

オレは、その憐れな若い男をかばうかのように、ボソッと呟いた。
「ふ、コンタクトって、落ちたらわかんないもんなんですよね・・・」

ようやく事情を察したのか、親父は、(なんだ、不審者じゃなかったのか。つまらん)とでも言いたげにオレのほうを見ると、薄ら笑いを浮かべながら、公衆便所を立ち去った。

オレは、若い男に近づくと、優しく声をかけた。

「あのー、お取り込み中、申し訳ありませんが、そこ、歩いてもいいですかね。手を洗いたいんで」

男は、うつろな眼差しでオレの顏を見ていたが、やがて、あきらめたのか、立ち上がって、場所をあけた。

なぜ、こんなことをするのか、自分でもわからない。
だが、オレは、次の瞬間、洗面台から3センチほどの距離にある、小さな光るものめがけて、勢いよく右足を振り下ろしていた。

オレのもてる全体重をこめて。

|

« お金じゃないんだよ! | トップページ | ちょっぴり科学なファンタジー »

「日記・コラム・つぶやき」カテゴリの記事

コメント

この記事へのコメントは終了しました。

トラックバック

この記事のトラックバックURL:
http://app.cocolog-nifty.com/t/trackback/136278/9478816

この記事へのトラックバック一覧です: :

« お金じゃないんだよ! | トップページ | ちょっぴり科学なファンタジー »