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「思考実験」する生き物

 科学には「思考実験」という奇妙なことばがある。実際の実験をやる前や、実験が技術的に困難な場合に、「頭のなかで実験をしてみる」のである。

 なんだか馬鹿みたいに聞こえるが、今風にいえば、これはシミュレーションにほかならない。むかしの科学者は、コンピューターがなかったので、自分の頭のなかで脳内シミュレーションをやっていたのである。

 物理学にはいくつもの有名な思考実験がある。

 たとえばガリレオは、ピサの斜塔から重さのちがう二つの球を落下させ、それが同時に着地する、という思考実験をおこなった。

 あるいは、アインシュタインは、ロケットのなかでは、噴射で加速度がかかったのか、近くに重力の強い星があるのか、区別がつかない、という思考実験をやって、相対性理論を完成させた。

 私のお気に入りはマクスウェルという物理学者が考えた「マクスウェルの悪魔」である。この悪魔は、ありていに言えば、時間を逆転させるような能力をもっている。ようするに「覆水が盆に返る」のだ。それならば、不老不死の薬もつくれるのだろうか?

 期待を裏切るようで申し訳ないが、物理学者たちは、マクスウェルの悪魔が存在しないことを証明してしまった。不老不死は、見果てぬ夢にすぎないことがわかったのである。

 明日の天気予報も、株価の変動予測も、考えようによっては、思考実験の一種だ。人間とは、そもそも、思考実験する生き物なのかもしれない。

(公明新聞・2006年4月11日号「文化最前線」掲載)

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