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書評:転回期の科学を読む辞典

「転回期の科学を読む辞典」池内了(著)みすず書房

「辞典」という名のとおり、本書は、どこからでも気軽に読むことができる科学随筆だ。
 著者は宇宙物理学者であると同時に、科学論にも造詣が深く、鋭い切り口と奥深い洞察力を駆使して、様々な科学のキーワードについて語る。
 目次から項目を拾ってみよう。まずは、天文学、ビッグバン、情報技術、量子論、X線、ダーク成分といったオーソドックスな科学の話題が並ぶ。常温核融合、科学の終焉、異端の科学、偶然の発見など、「境界領域」の話題も目につく。そして、デカルト主義、弁証法、倫理、起源、科学・技術・社会のような哲学的な話題も多い。
 常温核融合の項目から引用してみよう。
「東大の教授で原子核研究の権威であった有馬朗人氏は、『これが本当であれば丸坊主になる』と宣言した。(まだ、頭の毛が残っていた時代である。)そして、丸坊主にならずに済んだ。(結局、自然に丸坊主になったのだが。)実験は全くの架空のでっち上げに過ぎないことが徐々に明らかになったからだ」
 一時、世界中の科学者を巻き込んで大騒ぎになった幻のエネルギーの顛末である。独特のユーモアを交えた語り口に、思わず頬がゆるむ。
 最近の天文学では、宇宙の組成の九六パーセントまでは(未知の)「ダーク成分」だとされている。だが、著者は、
「私は十分に納得していないのだ。果たして、九六%もの『わけのわからないもの』を持ち込んで、本当にわかったことになるのかと疑問を抱くからだ」
 と歯に衣着せぬ批判を展開する。ここら辺も、実に気持ちがいい。
 本書は、もともと岩波科学ライブラリーとして刊行されたものを加筆・修正したものだが、新たな書き下ろしとみなしてかまわないだろう。
 科学者には、学者馬鹿としか形容できない、狭い了見の人も多いが、著者のバランスのとれた知性と幅広い見識は敬服に値する。
 忙しなく、底が浅くなりがちな現代において、じっくりと噛みしめて読むべき書物だと思う。

(竹内薫・サイエンスライター、共同通信社、地方新聞各紙掲載)

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