「科学の終焉」の翻訳以来、ベストセラーが出ていなかったので、今回の「99・9%は仮説」の初速には、かなり期待が高まる。
なんといっても強みは、実際に編集のKさんにしゃべった内容をテープ起こししてもらって、整理されたものに、こちらで徹底的に手を加えて完成原稿にもっていった点だろう。
なにしろ、初めから原稿を書くよりも、二倍から三倍の手間がかかっているのだ。
にもかかわらず、もともとは、しゃべったものだから、臨場感が残っていて、ほどよい密度に仕上がった気がする。
世の中には、対談本があふれているが、「99・9%は仮説」は、徹底的な書き直しが入っているため、対談本に散見される「たがのゆるみ」のような部分は完全に排除したつもり。
このメソッドは、実は、以前、養老孟司先生、村上和雄先生、茂木健一郎と一緒につくった「脳+心+遺伝子VS.サムシンググレート」という本以来、何度か試してきて、毎回、「肝心な何か」が欠けていて成功しなかったのだ。
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実をいうと、この本の仕事で、一つだけ学んだことがある。
僕は、文筆を生業(なりわい)としているが、自分が書くものに対して、「難しい」、「わからない」というお叱りの言葉を頂戴することが多い。自分なりに悩んで、いろいろと試行錯誤を繰り返してきたのだが、今回、「話し言葉」のほうが「書き言葉」よりも凝縮度が減って、読みやすく、わかりやすいことに気がついた。それは、もちろん、話してが錚々(そうそう)たるメンバーだからこそなのかもしれないが、僕としては、一流芸人の芸を間近で見物させてもらって、ちょっとコツを盗んでしまった気がした。
こういうのを役得という。
(「脳+心+遺伝子VS.サムシンググレート」のオレのあとがきから抜粋、2000年3月)
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名物編集者のKさんが焼鳥屋で「本は世界を変えるんです!」と真顔でしゃべっていたのが印象的だった。
Kさんは、「さおだけ屋」だけでなく、「座右のゲーテ」でも編集長のFさんの補佐として編集作業にかかわっていたようで、オレよりずっと早く一流芸人の芸を自分のものにしていたらしい。(この後半の点は、Kさんに確かめていないので、まちがっていたら訂正します)
今回、Kさんの情熱に引っ張られて、山の頂上まで連れていってもらったような感謝の気持ちと爽快感がある。
つまり、これまで欠けていたパズルのピースを、オレは、Kさんにもらったのである。
「99・9%は仮説」は、主に(オレと同じ)中年の男性読者に買ってもらっているようだが、今後、「よるぶつ」同様、女性読者にも読んでもらいたいものだ!