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読み比べ御免!

予告どおり、カルチャーセンターの文章講座でやっている読み比べを掲載しよう。
最近、とみに新聞書評の影響力が落ちている。
新聞の書評欄でとりあげられても本の売上は数百部しか伸びないことさえある。
なぜだろう?

おそらくホンネの書評が少ないことと無関係ではあるまい。

ネットは玉石混交だが、少なくとも、本音で語ることができる。

で、オレの場合も同様で、とてもじゃないが読み比べなんて、印刷媒体では不可能なので、ここで書く。

なお、底本は、二年ばかり前のものでオレの本棚にある本なので、もしかしたら、その後、改訳されている可能性もある。その場合は、どうか、ご一報くだされ。この日記で訂正させていただきますでな。

***

さあ、行ってみようか!

***

例によって暇の本好きなので、『Yの悲劇』の原書と手に入りやすい翻訳5つを読み比べてみた。以下、オレの独断と偏見で4個所を抜き出して○×をつけてみた。

問題とした4個所:

1 NY市警の「Inspector」は組織図でみると非常に偉い人なので、「警視」と訳すのが妥当である。「警部」という翻訳は実情とかけ離れている。(ただし、日本語の語感から、あえて「警部」とすることも可能。)

2 「"Yes! Yes!..." "Sir," said the inspector. "Yes...sir.」という箇所は、警視と探偵がお手伝いさんを事情聴取している場面だ。オレだったら、「んだ、んだ!」「偉い探偵さんなんだ。もっと丁寧な言葉遣いができんのか?」「んだ・・・です」とでもやるがな。(やりすぎ(笑))とにかく、この「Sir」は「さん付けで話せ」という命令なのだ。決して警視が隣の探偵に呼びかけているのではない。

3 「"A novel in one sentence, Thumm." "Aw, stop, or I'll bust out crying," growled the Inspector.」は、自殺した人物の遺書を読んだ検死医が「サム、たった一行なのに小説みたいに感動させるな」と感想を述べると、サム警視が「おう、やめてくれよ、涙があふれ出しちまうぜ」と唸る場面。ここでサム警視が怒鳴る理由はない。だが、なぜか、ここを「怒鳴る」と訳してある本が多い。

4 「Bigelow」という弁護士が登場するのだが、発音は「ビゲロウ」である。なぜかといわれても、現地の人がそう発音する、としか言いようがない。ここを「バイジロウ」としてある訳書が多い。

 この4点以外にもいくらでも比較できるのだが、まあ、こんなところでしょう。で、この4点をクリアしているかどうかで○と×をつけてみた。その結果は、次のようになった。

             1  2  3  4 
集英社文庫(鎌田訳)   ○  ○  ○  ○ 
ハヤカワ文庫(宇野訳)  ○  ○  ×  ○
創元推理文庫(鮎川訳)  ×  ○  ×  ×
講談社文庫(平井訳)   ×  ○  ×  ×
新潮文庫(大久保訳)   ×  ×  ×  ×

 結論からいわせてもらうと、鎌田訳は、この中ではいちばん新しいだけあって、よく研究されており、オレは一個所も誤訳をみつけることができなかった。かなりの英語力をもった人が細かくチェックした可能性がある。(もちろん訳者本人が出来る人なのかもしれない!)

 平井訳は、二年前にもすでに絶版だった。この採点表だけ見ると、あまりいい訳でないようだが、オレは個人的に好きだ。日本語として、非常にこなれていて、捨て難いのである。できれば、平井訳の明らかな誤訳だけを誰かが摘んで、再販してもらいたい。名訳なのである。

 宇野訳と鮎川訳は、ともに高いレベルの訳であるが、現時点では、完璧といっていい鎌田訳が出ているので、どれを買おうか迷ったら鎌田訳をお勧めする。

 なお、大変残念だが、大久保訳は、誤訳箇所が多すぎて、まったくオススメできない。英文学の翻訳の第一人者の訳が、なぜ、こういうことになったのか不思議であるが、おそらく、忙しすぎて、下訳を誰か別の人にやってもらって、最後に御本人が目を通したのではあるまいか。そして、ミステリー小説ということで、結果的に手抜きになってしまったのではなかろうか。私も翻訳は下訳に手を入れるし、そうでないと多数の翻訳はこなせないし、それが悪いことだとも思わない。ただ、まちがった下訳に引っ張られて、本来ならまちがわない箇所に誤訳が残ることは、ままある。売れっ子の翻訳者が陥りやすい罠である。(もちろん、実際に、そういった経緯だったかどうかはわからないが・・・)
 この翻訳については、以前にも編集のAさんを通じて「改訳」の必要を申し入れたのだが、まあ、誰もオレのアドバイスになんか耳を傾けないんだよね。ふっ。

 鎌田訳の優位は崩れないが、おそらく、あまり売れていない。誰も翻訳の良し悪しなんてわからないし、わかっている人も黙して語らないからな。

***

 くどいようだが、この情報は、すでに改訳されていて古い可能性がある。各自、本屋さんで確かめていただきたい。
 また、オレはスーパーマンじゃないから、自分の翻訳にだって誤訳はあるぜ。なるべくなくすよう努力してるけどな。だから、別に翻訳者を責めているわけじゃない。単に本好きで暇だから読み比べをしているだけだ。そこんとこ、ヨロシク。

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