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Fの死

飲み会でFのお墓参りの話が出た。

前に「湯川薫日記」に書いた憶えがあるけれど、私が大学一年のとき、一年後輩のFが死んだ。Fは私がやめた後に馬術部のキャプテンをしていて、とても才能があり、K大学の推薦入学も決まっていた。
スポーツだけでなく、高校三年にしては教養も高く、クラシック音楽が趣味だった。

Fは、いわゆる突然死だった。
朝、家人がベッドで冷たくなっているFを発見したのだという。
Fの家は開業医だったが、夜中に急に心臓が止まってしまったらしく、蘇生できなかった。

当時、私は自分をかわいがってくれた祖母と伯母が亡くなって、それなりに人の死を経験してはいたが、まさか、一年下の同じ部の後輩が突然死ぬとは考えてもいなかった。それも事故ではなく理由不明の突然死だったのだ。

私は東大の文化一類というところに通っていて、そのまま法学部に進学するつもりでいた。
だが、Fの死は、私の人生を180度変えてしまった。
「自分だって明日、突然、死んでしまうかもしれないのだ」
その可能性が現実味を帯びて私に襲いかかってきた。

私は、いろいろ考えた末、それまでの人生計画をすべて破棄して、もうゼロから始めることにした。
「明日、死んでも後悔しないように、好きなことをやろう」
私が好きなのは法学ではなく、文学と物理だったのだ。

Fの死がなかったら、おそらく、私はそのまま法学部に進んで、今頃はちゃんとした会社に入って安定した生活を送っていたにちがいない。

今、私は作家となって、物理の本を書いて暮らしているし、まだ、これから小説だって発表するつもりだ。

生活は不安定このうえないが、Fのおかげで、私は、明日死んでしまっても、人生に悔いを残すことはない。

11月12日はFの命日。
今年は、友人と一緒にお墓参りに行く。

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