アインシュタインの伝記本の下巻に機械翻訳の酷い部分があって、回収騒ぎになっている。私はK社の編集長に教えてもらって知ったのだが、うーん、たしかに目茶苦茶な訳だよ、これ。
まずおかしいのは、そもそも商業出版の本に機械翻訳を使っていること。私も長年、サイエンス作家として科学書の翻訳や監修をやっているが、いまだかつて、機械翻訳を使った翻訳にお目にかかったことはない。以前、機械翻訳のソフトを試してみたことがあるが、インターネットのサイト翻訳なら使えても、商業出版のレベルには遠く及ばないことがわかり、いまだに人間が翻訳している。
それは、この道のプロから見ればあたりまえのことだが、いったいなぜ、誰が、機械翻訳を使ったのか、疑問が残る。
訳者の一人がアマゾンの書評欄に「弁明」を書いているが、監修者に訳稿を見せずに、勝手に出版してしまったそうだ。もし、それが本当なら、今度は、担当編集者の仕事に大きな疑問符がつく。監修者のチェックが数十から数百ヶ所も入って、監修者のオーケーが出なければ、校了にはならないのが基本ルールだ。でなければ、そもそも監修の意味がない。訳者や監修者が知らないうちに本が店頭に並ぶなんて、前代未聞である。
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最近、出版界には奇妙な現象が起きている。
担当編集者の仕事が、いい加減なのだ。通常、雑誌の連載が終わるときには、担当編集者から丁寧なメールが来る。場合によっては、実際に自宅まで来てくれたり、どこかで会食をして、作家の労をねぎらってくれる。
ところが、つい最近終了した連載の場合、「ありがとうございました」というメール一本すら来なかったので、驚いた憶えがある。近頃の編集者は何を考えているのかわからない。
先日、鈴木光司さんと昼飯を食っていたら、やはり、知らないうちに連載が終わっていて、びっくりした、と言っていた。おいおい、ちゃんと連絡しろよ、担当編集者(笑)
もっと驚くべき事例もある。鈴木光司さんと仲のいい作家の話だそうだが、なんと、その作家の名前で担当編集者が勝手に原稿を書いて、雑誌に載せてしまったのだという。原稿を催促するのが面倒だった、というのが理由だそうだ。いやはや。
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こういった事例は、かなり増えてきている。何が起きているのかわからないが、担当編集者が作家ときちんとコミュニケーションを取らずにトラブルになるケースが続出している。
この状況をふまえて、機械翻訳スキャンダルを分析してみると、やはり、担当編集者が、訳者や監修者とのやりとりが面倒くさくなって、勝手に機械翻訳を使って、校閲も通さずに、そのまま校了にしてしまった、と考えるほかない。
監修者も訳者も、突然、できあがった本が手元に届いて、びっくり仰天したにちがいない。
これって、出版界だけの特殊事情なのかしら。それとも、日本全体で起きている異変なのかしら。ちょっと怖い話ではある。